令和7(2025)年度地域づくり表彰について
国土交通大臣賞
(総合的に最も優れた取組)
MOTレール倶楽部
(北海道 網走市)
〜鉄道を活かした 地域おこし〜
- 活動の概要
- 「MOT(もっと)レール倶楽部」は、網走市を拠点に鉄道愛好家たちが参集し「まじめに・おもしろく・地域と鉄道を考える」をモットーに地域おこしに取り組むボランティア団体。
最初は「オホーツクにSLを走らせたい」という思いから始まり、次いで地元の食を活かした「オホーツク食い倒れ号」の貸切列車。
これをきっかけに実際に「SLオホーツク号」の運行にこぎつけ、その歓迎委員会を行政・鉄道事業者との協業で行う。
さらに冬の観光列車「流氷物語号」では、名作ゲームとの連携も実現。メンバーが沿線を案内し、グッズも企画し販売し、鉄道に興味が無かった人々も誘客。地域はもちろん全国からの来場者に「マイレール」意識を醸成させている。 - 選定理由
- 地元の食・文化・風景等に着目し、それを活かした企画を提案していくだけでなく、40年前のゲームに着目した着眼点と、全国各地に味方を作り、権利者や事業者等を熱心に説得し連携にこぎ着けた熱意や関係者への根気強い働きかけ等は着目に値する。
観光列車に地域住民が手を振る活動なども地道ながら地域の「マイレール」意識の醸成にもつながり、地域づくりをわが事とするきっかけとしても、また関係人口創出の機会としても注目される。
また、周辺の世界自然遺産や国定公園の案内も含めたジオツーリズムの展開や、ゲームの聖地巡りなどで、より広い範囲に波及効果を生んでいる点も注目される。
鉄道愛好家が集まってスタートした活動が、地域を巻き込み、創意工夫で入り込み客数を着実に伸ばしている。鉄道、ゲームというニッチでコアなファン層にターゲットを絞り、彼らにヒットする企画や製品を次々とチャレンジしたことが独自性を生み、ブランド力にもつながっている。また、子ども向け学習貸切列車によって、子供のころから地域資源を知り「マイレール意識」を醸成させるような取組も、地域の未来にとって重要である。全国には廃線危機に直面している鉄道が多くあるが、内外のファンの力の創意工夫で新たな価値を創出できたという実例として元気をもらえる取組といえる。
コラボ列車に設置された乗車記念ボードで撮影をする乗客
北浜海岸で地域住民とともに大漁旗で列車を大歓迎
0152-67-6707
国土交通大臣賞
(総合的に最も優れた取組)
塩尻Lab
(長野県 塩尻市)
~ 外からの人材と地域をつなぎ挑戦を生む ~
- 活動の概要
- 「塩尻Lab(ラボ)」は、地域住民と都市部等の外部人材(関係人口)とが協働で地域課題の解決から魅力を見いだし、そしてその具体的実装までも行う実践的「プログラム」かつ「コミュニティ」。
地域住民が発議した今直面するリアルな地域課題を、都市部に住む人々が一緒になって問題の解決や魅力の再発見に繋げ、その成果を『仕様書』としてまとめ、その問題解決の担い手探しや実装までも行う「実践」に重きを置いていることが特徴。
オンラインミーティングだけでなく、現地のフィールドワークも行うことで、内外の人々の敷居の低い・新しいコミュニティづくりにも繋がっている。 - 選定理由
- 「塩尻Lab」は、地域住民と外部人材との協働による地域課題を解決するプログラムの組成から、実践までも促す仕組み。既に20を超える地域課題のテーマが取り上げられ、その検討のために100名を超える「関係人口」が生まれている等、量的な実績を積んでいる。
それだけでなく、「ワイン用ぶどうの栽培プロジェクト」の参加をきっかけに「二地域居住」を始めた人も出る等、「二地域居住」の優れたゲートウェイにもなっており、「二地域居住」促進の極めて優良なモデルである。
また、外部人材が地域で活躍し、輝き、地域と協働するためには、地域内外の人材が交じり合い、ごちゃ混ぜになることが重要であるなかで、そうした機能を果たすコワーキングスペース「スナバ」や、人材と地域の適切なマッチングを促す仕組みを整えていることも、地域の暮らしの「見える化」を通じ「わがまち」意識の向上につながっている。
これらの仕組みは、二地域居住者や本格的な移住者の目にも、大きな魅力として映るだろう。
既存の移住者や地元住民にとっても、居住年数の多寡に依らず、地域課題の「発議者」になり、多様な人材とともに地域の課題解決に当事者として関われる機会が得られるラボの存在は、常に新しい刺激に出会え、「わがまち」意識の向上や、移住者の定着、若者の転出の低減等にも繋がっていくだろう。
特産品から地域課題まで幅広いテーマで地域資源の磨き上げや活用に取り組むメンバー
フィールドワーク中の対話の様子
0263-52-0280
国土交通大臣賞
(総合的に最も優れた取組)
せとうちみなとマルシェ 実行委員会
(愛媛県 今治市)
~ しまなみ海道開通で低下した港や町の賑わいを マルシェで新たな人の出会いの場として復活 ~
- 活動の概要
- 歴史的に瀬戸内における海の玄関口であり、造船で賑わった今治港も、「しまなみ海道」の橋々の開通により、交通の結節点としての役割が低下してしまった。そこで「交通の港」から「交流の港」への脱皮を狙い「瀬戸内のうまいに出会えるマルシェ」を展開することとした。
月2回の開催だが、多種多様な100余の店舗が出店。焼豚玉子飯、鉄板焼鳥等のご当地グルメの販売や、地物魚の競り市の開催など、今治らしさを発揮する場にもなっている。
現在では夏限定の夜マルシェやクルーズ船運航など様々な取組の実験場ともなっており、中心商業地への導線づくりなどにも繋がってきている。
- 選定理由
- 「しまなみ海道」開通により、港や中心市街地の衰退がもたらされてことに危機感をおぼえ、「せとうちブランド」との出会いの場として「食」をきっかけに、今治の地域資源の発露の場として再定義した。
また、登録店舗数が600あるなかで、月に2回という希少性と出店数を毎回100余に絞ることで毎回新鮮な出会いと、出展者間の競争による磨き上げが進んでいること。
毎回、新たな出会いが生じ易く、リピーターを生んでいること、市や商工団体だけでなくボランティアや学生などの活躍の場が開かれている点などで、官民連携の多様な主体による持続可能な運営体制ができていることで、地域コミュニティの活性化に繋がっている。
集客力の向上により、周辺市街地への回遊性向上にも資しており、中心市街地全体の新たな人の流れと賑わいの牽引車と言える存在となっており、数多くの創意工夫は、同じく港地区の再生に悩んでいる他地区の参考や手本となる取組といえる。
海と港を楽しむ交流の場、せとうちみなとマルシェ
来島海峡大橋・急潮流などを間近で体感できる爽快ミニクルーズ
0898-36-1541
全国地域づくり推進協議会会長賞
(地域活性化の観点で優れた取組)
「まめ」新聞有志会
(新潟県 上越市)
~ ミニ新聞『まめでやったけぇ』の発行と お弁当昼食会 ~
- 活動の概要
- ミニ新聞『まめでやったけぇ』(方言で「お元気でしたか?」の意味)は、冬には4mもの雪で閉ざされる山間地区の住民有志が、集落の日々の出来事や関心事などを綴ったもの。
2011年の東日本震災の不安な気持ちを少しでも明るくしようと発行をしはじめた。年に3~5本のペースで発行した記事を10年分の記事をまとめた冊子も刊行しており、現在、第2集も刊行。冊子は地区の人数を大きく超える250部を発行し、地区を訪れる人などに読んでもらっている。
10年以上もの蓄積の冊子化により、思い出の写真や亡くなった方を思い出すきっかけとなり、皆で支え合って生きる元気が湧いてくる。また冊子はこれきっかけに外の方が集落のファンになってくれている。 - 選定理由
- 人と人とを繋ぐ取組としてミニ新聞を発行し、伝統行事の由来や、ワラ靴の編み方、地元の芋煮の作り方なども新聞記事にするなど、日々歳々失われていく地域の文化や記憶の定着手段としても機能している。
また、地区の食文化を活かした栄養バランスの取れたお弁当作りの場を作り、地区の孤立するお年寄り等を呼び込むなど、今後の孤立対策の参考になる取組も行っている。
執筆者に地域外の人を取り入れ、交流のきっかけとしている点も優れている。他地域からもファンが出てくる契機にもなっており、地域の持続可能性の拡大にも資している。
山村集落や豪雪地帯によらず、今や都市圏のニュータウンや団地などでも過疎化・高齢化、そして孤立化が進むなかで、身近な地域の皆がいかにして結びつけ、楽しく、生き生きと、助け合いながら暮らしていくのか、その手段や手法の開発や導入・実装がいよいよ問われる時代にさしかかっており、大いに参考になる事例といえる。
「まめ」新聞有志会3人が新聞記事について話し合う様子
お弁当昼食会で振る舞うお弁当の準備
025-520-5673 
全国地域づくり推進協議会会長賞
(地域活性化の観点で優れた取組)
京田辺 農福観 地域づくり協議会
(京都府 京田辺市)
~ 交流・連携の少ない市内の各地域資源・団体を、農業やマルシェ・観光で結びつける ~
- 活動の概要
- 「多様な人々が繋がり、循環する地域づくり」をコンセプトに、農業・福祉・観光・商工などの各関係者が連携して、都市的エリアでのマルシェの開催、茶摘み・抹茶づくり体験などの観光ツアー、障がいのある方々の活躍の場を広げる活動、地域の特産品を目指したクラフトビールづくりなど多種多様な連携事業を展開している。
地域内の交流が薄いという地域課題に対し、農業の方が他地区に訪れてマルシェを開催し、都市部に通勤してる方が多様な方々と共にお茶や京野菜の農業体験し、また学生や大学を巻き込んで、地域の新しい名物を目指し「幻の大麦」を活用したビール開発を行うなど、協働・連携・共創の場やコミュニティとして、「農・福・観」をキーワードに人と人との出会いの拡大、繋がりの深化を図っている。
- 選定理由
- 農業、福祉、観光、商工、異分野の組織がそれぞれの強みや弱み、資源や役割を持ち寄りながら連携し、「我がまち・京田辺」のイメージを積み上げていく活動は、平成の大合併から20年が経過しても、まちの一体感や地区間の交流が進んでいない地域にも大いに参考になる事例といえる。
福祉の視点と「稼げる地域」を両立し、各地区の文化の違いを「観光」として価値創造していくという試みは、参加者だけでなく、農業者・商工業者にとっても新しい刺激を得る機会ともなっている。
「京田辺まるごと観光ツアー」など、体験型の農業観光が各拠点のバリアフリー化の契機ともなっており、今後、遊休農地を活用し、「体験型農業観光業」を興したいとの構想もあり、多様な分野や特質を持った人々の協働の結果として地域課題も解決し、「稼げる地域」に繋がっていく可能性が高まっている。
協働・共創の場として、農業と福祉と体験型観光・商工業相互の「交流」と「連携」は、それぞれのやりがい・生きがい・稼ぎがいを引き出し、「地域の対流を生み出す装置」となってきており、他地区の参考にもなる。
特に通所型の就労施設の方々が単なる労働力としてではなく、収穫した野菜を加工して「海老芋スープ」などのオリジナル食品を開発するなど、主体的に地域力を牽引する「サービスを提供する側」として参画している点にも注目したい。
菜の花回廊「市観光協会とタイアップ」
新住民が多い市北部の商業施設で年4回マルシェを開催(約3千人が来場)
0774-64-1310
全国二地域居住等促進官民連携プラットフォーム賞
快生館
(福岡県 古賀市)
~ 湯けむりと ビジネスでつなぐ 二地域 ~
- 活動の概要
- 地域に愛された歴史ある温泉旅館「快生館」を、官民連携により、二地域居住や企業誘致の拠点となる宿泊可能なワークスペース兼インキュベーション施設として再生。入居企業は2025年11月現在20社を超え、企業研修や合宿の受入も増加。さらに、古賀市の移住促進プロジェクト「古賀市親子移住体験」の拠点としても活用。駐在スタッフとして「コミュニティマネージャー」を配置することで外部人材と地域をつなぐハブ役を果たし、都市部人材が地域事業者や地域文化と直接触れる機会を創出、移住者の誕生や二地域居住を検討する都市部人材の受け皿としても機能することとなり、地域経済や交流の活性化に寄与している。ソフト面では、地域資源を活かした「テーマ型体験ワーケーション」の開催や、地域と共創する酒まつり等のマルシェを開催し、交流や消費を通じた地域経済循環を創出。
中でも、『狩猟体験ワーケーション』は、地域課題である有害鳥獣を命と向き合う体験資源として活用しており、地域のマイナスをプラスに転化することに加え、人手不足が深刻化する猟師の課題周知・育成にもつながっている。スタッフ自身も狩猟免許を取得し猟友会に参画、有害鳥獣駆除隊員として伴走するほか、様々な地域課題に対しても持続可能な産業モデルの実践に取り組んでいる。 - 選定理由
- 全国各地で同時発生している遊休施設の有効活用・再生の事例として、また「稼げる地域づくり」の資する新ビジネスを支援するインキュベーション拠点として、都市部の人材や企業を惹きつけ、彼らを触媒として地域に新たな経済循環を創出しはじめている。
いわゆるワークスペースとしての運営に加え、企業合宿の受入れや体験型ワーケーション、マルシェ開催などの取組により、年間のべ3,000人以上の利用者を生み、イベントや視察等で2,000人もの関係人口も生んでいる。
また、来訪者の消費行動を地域全体に波及する創意工夫により、「快生館」を起点とする地域内経済循環も創出している。 その結果、周辺にオートキャンプ場や飲食店が開業する等、新たな民間投資が生まれている点も評価でき、地域に貢献する二地域居住を牽引するモデルとして、優良な事例といえる。
「快く生きる」を体現する地域共創型マルシェ「鹿の湯 酒まつり」
温泉×ワークの発想から生まれた「湯治ワーケーション」での足湯
092-405-0111 
国土計画協会会長賞
(国土づくり・地域づくりの観点から注目された取組)
白山瀬波の会
(石川県 白山市)
~ 消滅危機に直面していた地区から発信する 民間主導の里山再生 ~
- 活動の概要
- かつて炭焼きで暮らしていた豪雪地帯の谷間の瀬波地区は、急激な人口減によって地区消滅の危機が懸念されていた。
だが他に誇れる地域資源=豊かな自然や景観などの地域資源を活かした交流人口の拡大によって、その流れに歯止めを掛けたいと考えた地元有志が会を設立。
その理念に共感した企業と連携して、廃道となった登山道の再生、キャンプ場や川遊び場の整備、地区伝統の炭釜の復活等「この地区を訪れて良かった」と思って頂ける体験の場づくりに注力。
約10年の地道な活動の結果、現在ではキャンプ場周辺への訪問者年間約8千人、うち登山道整備によって出現したカタクリの開花時期には約3千人来訪し、また空き家の紹介や地元野菜の販売を行うなど、地域の持続可能性の拡大に繋がっている。 - 選定理由
- 地元の森林環境の保全再生と交流人口の拡大を通じて、地域の持続可能性の向上を図っている。
特に、稼働しないまま放置されていた自然体験施設の再生や活用により、雇用創出にも繋げた点、登山アプリへの掲載等、積極的な情報発信により、地域外の訪問者に希少植物や里山の価値を再確認させる機会を提供した点などは、単に当該地区の再生や持続可能性の拡大だけではなく、より広範な価値創造にも繋がっている点も評価できる。
官の補助金頼りでなく民間の力で里山が再生した実例は珍しく、新規事業分野の開拓の一貫として、また、郷土愛やメセナだけでなく、CSV(共通価値の創造)の一貫として「地域づくり」に関心がある企業等は潜在的に各地にあるとみられ、そのような企業・団体等との連携による「地域づくり」の優良事例としても紹介する価値がある。
企業等との連携の結果、有望な地域資源が再発見・再注目され、寂れる一方だった里山に人が集まり、更に高齢者の雇用や生きがいにも繋がっていることは、今後、各地に波及して欲しい事例であり、ひいては全国的に里山の価値が再確認されるきっかけにもなり得るものと考える。
毎年200人近くの親子が集うキャンプフェスティバル
稚魚(カジカ)の放流による保護活動
076-274-9517 
日本政策投資銀行賞
(地域経済・産業振興上注目された取組)
くどやま芸術祭 実行委員会
(和歌山県 九度山町)
~ 町が まるごと 美術館に ~
- 活動の概要
- 大阪の難波から電車で1時間。高野山の玄関口でユネスコの世界遺産に指定された寺院を有し大河ドラマ「真田丸」の聖地でもある九度山町も、この30年で人口が半減、既存の歴史資源頼りに限界を感じ始めていたところ、大河ドラマをきっかけに芸術家との繋がりが生まれ、町中での展示会を開催したところ好評であった。
そこに子どもたちに本物を見せてあげたいという思いが加わり、町中に寺院や道の駅を加え「町がまるごと美術館」というコンセプトの隔年の芸術祭(ビエンナーレ)を開催している。
開催については、ボランティアを募り、てづくりのイベントとして、多くの人を巻き込んでいる。
この「くどやま芸術祭実行委員会」の活動が「自分たちの地域は自分たちで盛り上げる」という機運を生んでおり、2年1度のひと月半という芸術祭の期間を超えて、通年で「町の我がごと化」「新しい挑戦に向かおうとする気概」を生んでいる。 - 選定理由
- 都市との近接性や床しい豊富な歴史資源がありながら、若い世代にとっては、交流と出会いの不足を感じていたところ、芸術という切り口と自ら参加することで外来の人々との交流や出会いを得るチャンスが継続的に生まれてきている点は興味深いアプローチと言える。
町全体を、風景を借景にしつつ芸術祭のキャンバスに、という発想は、普段見慣れているふるさとの風景や文化を見直す好機にもなっており、芸術祭の合間にも、街の魅力の再発見や愛着の向上に繋がっていることは素晴らしい。
また、2年に1度の短期の貸し出しをきっかけに空き家や空き店舗の活用を考えるなど、町の空気を入れ換える効果も生み出されており、短期のイベントによる空き空間の活用による価値の見直し効果は、地域の参考にもなるだろう。
観光入り込みの効果はもちろん、数は少なくとも移住や、新しい店舗のオープンのきっかけにもなっており、地元の歴史資源の再発見や「まちなか」の活用を考えるヒントになる事例と言え、若者の郷土愛の向上とともに、地域経済に与える影響も注目される。
「くどやま芸術祭」 実行委員メンバー
住民ボランティアも参加して絵画設営
0736-54-2019 
地域づくり表彰審査会特別賞
(審査会で特に注目された取組)
市東地域 15町会 共創プロジェクト
(千葉県 市原市)
~ 地域コミュニティの崩壊を防ぐ 住民主導による地域再生 ~
- 活動の概要
- 我が国有数の工業都市と言われている市原市の東部にある自然豊かな田園風景のみられる「市東(しとう)」地域は、人口の減少や高齢化、小学校の廃校やバス路線の廃止など、地域の持続可能性を左右する深刻な課題に直面していた。
そこで15の町会の住民有志がこれらの地域課題の克服と地域アイデンティティの獲得を目指し、豊かな自然と歴史を活かした数多くのプロジェクトを創出。里山整備や、駄菓子屋「十五や」の開店、親子での防災キャンプ、地域の農産物を使った太巻き寿司づくりなど、地区外の人々も巻き込んで、誰もが地域に愛着と誇りが持てる多様多彩な活動を展開している。 - 選定理由
- 若者人口の減少と高齢化、路線バスなど地域の足の消滅、耕作放棄地や低管理地の増加等の課題は、大都市圏内部においても急激かつ深刻に進行している。
これらはマクロな問題ではなく、地域の生活圏の持続可能性が問われるレベルとなっており、むしろ都市部に近接しているほど、その進行速度や明暗のコントラストは激しい。
本事例では、耕作放棄地を舞台に、その活用・再生のみならず世代を超えた交流の場が形成されており、農作物の販売、自然薯や市東米という新たな特産物、さらには自然学校という形で次世代の地域への愛着の醸成にまで視野を広げている。
また、特筆されるのは、市独自のポイント制度『いちはら推し活制度』を活用し、イベントの参加でポイントが得られ、それで地域内の協力店で利用できる仕組みを導入するなど「地域内経済循環」の工夫をしている点である。また活動には常に「こどもたちの視点」「楽しさ」を大切にし、活動に参加するだけでも、身近な地域の価値を発見し何かを作り出せるんだという自信を持たせることで、次世代の地域への愛着を生み出している点が評価できる。
地区のための地区内での活動だけでなく、市境も超えて、近隣市のニュータウンや県外からの参加者も増えているようであり、地域の「匠」に自然や伝統の知恵を学ぶ多世代交流の場としての「自然学校」や地域の未来を可視化する「百ねんたんぼ」活動など、1つ1つは小さな活動であっても、Iターン者も含めた交流機会創出や参加・参画の機会増大の試みの積み重ねが、地域の「わが事化」や、地域住民に清新な誇りを生んだ点も素晴らしい。人口集中地区に近接している地区だからこその切迫する危機感が、15ものの多数の町会の協働を実現した点も、都市部・農村部を問わない地域内・地域間連携の大切さを示した一例として審査会の特別賞として紹介したい。
里山の管理や耕作放棄地を再生するために機器の技術を学ぶ技能講習会を開催
百年続く田んぼを作ろうと始めた「百ねんたんぼ」
0436-23-9998 
地域づくり表彰審査会特別賞
(審査会で特に注目された取組)
新井宿駅と地域まちづくり協議会
(埼玉県 川口市)
~ 繋がる小さな経済循環 地域資源を掘り起こし 都市農業・文化・歴史・産業に磨きを掛け「フェスタ」で展開 ~
- 活動の概要
- 東京都に隣接し殆どが市街化区域である川口市の中で、本協議会のある神根地区は8割が調整区域で、歴史資源が残され伝統産業の植木などを含む緑豊かな地域。しかし最近、農地の放置や粗放的な利用が増えて「このままでは何の魅力もない、愛着の持てない地区になってしまう」という危機感が高まってきた。そこで、スマホもSNSも殆ど使わない平均60歳の地元の方々が、新住民も巻き込んだ魅力ある持続可能な地域づくりをめざし、都市農業と歴史的な文化財や古くからの伝統を核とした活動を構想し、多彩な部会を設置し活動を展開しはじめた。具体的には地場野菜を「かみね野菜」としてブランド化し、収穫体験などを通じて、新住民と農家との交流を深めるとともに、古い城址や古民家などの調査研究と史跡巡りイベントなどと結びつけ、この地区の歴史的価値を再発見し情報発信することでふるさととしての愛着を高め、伝統工芸の「赤山渋」の復元と普及に注力、さらに体験教室などを開催し、後継者育成と文化継承を図っている。また、農家と地域の商工業者と連携し6次産業化商品を開発、地域イベント「イイナフェスタ」(新井宿駅周辺地区から離れ、より広い面積のハイウエイオアシスに隣接した自然公園「イイナパーク川口」が会場)に、地場野菜の直売や地元グルメの体験、企業と大学が連携したイベントや音楽ライブ、ワークショップ等の多彩なイベントを展開。
- 選定理由
- 残された放棄地を粗放的な利用にまかせるままにせず、積極的に都市農業を交流の原動力として活用し、併せて忘れられがちな歴史文化や失われていた産業・産品の復活、さらに新住民や地域の様々な規模の企業が連携することで、それぞれにやりがいが出る共創の場として協議会が活性化されている点に注目したい。耕作放棄地と寝るだけのベッドタウンという捉え方を逆転し、市街化区域では得られない・他にない地域資源を有する地区として、その個性と強みを磨き上げ、都市化の進む地域においても、残された自然・文化・産業を生き返らせることで、農と住まいを有機的に融合させた賑わいを創出し、産品のブランド化も果たしたことは全国各地の市街地隣接の調整区域の活性化のヒントとして、手本性が高い。
定期的なイベントの実施により、地域のお店や若い人の企画参加も増えてきて、当初とは比べものにならないほど多彩な老若男女が関わる活動に進化したこと。歴史・文化や地元の産品が一同に披露される場として交流の核となるフェスタを活用するなど多彩な活動を連続的・有機的に連携させ、小さな経済循環を積み上げて段階的に大きく育てている発展性と戦略性は、農業活用型の地域づくりのモデルとして、大いに参考になる。
試行錯誤や手書きで始まった取組にオープンな繋がりを育てることで、どんどん新しい参加者を巻き込み・絶えず新企画に挑戦し成長していく姿は、地域と農業との幸せなマリアージュのモデルとして、どの地区にも参考になり元気づけられる事例として推薦できる。
新住民から見た場合、本協議会の取組は、身近な場所で自然や意外な深さと奥行きを持つ地域文化に触れられる、生活が楽しくなる取組というように映っており、安全で美味しい地場野菜が購入でき、週末にはごく近所で収穫体験で楽しめる。また、伝統工芸のワークショップに参加することで、代々この地域に住んでいる農家の方々から地域の歴史や特徴が聴ける出会いも得られ、単なるベッドタウンの交流イベントとは、奥行きも深みも違う体験を提供する主体と認識されている。
収穫祭・地域の文化的コミュニティの発表の場「イイナフェスタ」を開催
日常的に防水・防腐・染料として使われていた赤山渋を復元し、染物や工芸品を製作
048-259-7644

